研究概要 |
ハドロンのスペクトラムに軸性U(1)異常現象を起こすクォーク-インスタントン結合を,様々な角度から検討した.まず,クォーク-インスタントン結合によって誘起されるクォーク間相互作用が一定のカラースピン構造を持つ事に注目した.この新しい型の相互作用が,基底状態のハドロンのスペクトラムでは,グルーオン交換とほぼ類似のスピン-フレーヴァー構造をもたらすが,例外的なイータ,イータ'の質量差や,励起バリオンのスペクトラム,またダイバリオン系などで,異なる振舞いを見せることをクォーク模型の計算によって明らかにした.バリオン間相互作用の計算には,クォーククラスター模型を用いた.今年度特に注目したのは,P波バリオンに働くスピン軌道力とNN間スピン軌道力の無矛盾な説明,そこでのストレンジネスを含む場合と含まない場合の比較,さらに,QCD和則による核子やダイバリオンの質量に対するインスタントンの寄与などのトピックスである. P波バリオンでは,ストレンジネスを含まない系でのスピン軌道力が非常に弱く,転じてストレンジネスを含む系ではスピン軌道力による励起構造が見えている.短距離NN相互作用では一般にかなり強いスピン軌道力がデータを説明するためには不可欠である.この様なスピン軌道力の一見ランダムな現われ方は,実はその起源が二種類あるためである事が分かった.すなわち,インスタントン誘起相互作用とグルーオン交換はフレーヴァー構造の違いから,バリオン内ではクォーク質量が等しければ打ち消し合うのに,バリオン間力ではむしろ同符号で働くことを示した. QCD和則では,インスタントンは非摂動解なので,一般的には摂動計算には含まないのが通例だが,大きさの小さいインスタントンの寄与が無視できないという報告もある.そこで,核子の和則やダイバリオンの和則におけるインスタントンの効果を調べた.
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