研究概要 |
当初の実施計画にげた項目について次の成果が得られまた継続中である。 (1) スクロース結晶の融解と蛍光寿命の測定。 分子性結晶であるスクロース(庶糖)の単結晶を用い,その融解点に至るまでの,ラマン及び蛍光スペクトルをまず詳細に調べ,(a) 蛍光バンドに大きな変化が現れ,ラマンスペクトルの偏光依存性が融解点の約10C上から失われること。を見いだした。一方(b)蛍光寿命は融解点の上約25Cから短縮化が始まり、 10C上までくるとさらに顕著に短縮化する。 寿命値は融解点に於てちょうど非晶質のスクロースを融解させた場合に等しいことが明らかになった。 これらの事実は、この短縮化が分子性結晶の分子間振動の揺らぎの増大を反映しているためと考えられる。 これは、この実験方法が、結晶中の局所的な構造の揺らぎを敏感に検知していることを示している。 これらの結果は 日本物理学会春の分科会(1992.3)第46回年会(1992.9)及び科研費総合研究(A)"水素結合を持つ結晶の相転移の新しい視点"の研究会(1992.11)等で発表した。 今年度の研究によってスクロース結晶の融解点近傍での critical-speeding-up が明瞭に観測できたがこれは融解現象の前駆現象の初めての観測であり現在投稿準備中である。 (2)氷(Ice、Ih)の融解に関する研究に取り掛かった。 氷は水素結合を含む単純な構造を持つ結晶であるが、その特異な性質には不明な点が多く光物性的にも興味ある物質である。 本年度はまずその単結晶の育成を試み、成功し、また半導体冷却素子を用いた光学クライオスタットを設計製作した。 低波数のラマンスペクトルは氷の中のプロトンの配置の無秩序性を反映してその偏光依存性が結晶方位に殆どよらないことが確認された。 蛍光の測定に関しては不純物の導入による色中心の生成を模索中である。 さらに、 Siの微粒子結晶にみられるような比較的強度の大きい、かつ長い寿命を示す物質の蛍光の測定には、UVの光源(購入した窒素レーザ)によっても測定できることが判明した。 これに、半導体の融解相転移の研究にも有効にもちいることができる。 (3)水晶の不整合相に関する研究。 水晶の相転移は構造相転移であって融解に関するものではないが、相転移における原子揺らぎの役割を光学的に調べるには絶好の対象である。 この点に関してもいくつかの研究を行った。
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