研究概要 |
(1)WO3の単結晶薄膜は真空蒸着法により作製した。 (2)基板温度(Ts)により結晶多形が育成される。電子顕微鏡観察および電子線回折により,Ts=350℃以下では酸素欠陥の入らないWO3が,350〜450℃の間では酸素欠陥による結晶せん断面をもつWO2.8が,450℃以上ではWO2.72が成長することを見出した。 (3)赤外フーリエ変換分光計により透過スペクトルを測定した。 基板温度350Cで育成したWO3試料の赤外吸収スペクトルの膜厚(t)依存性では,t=50nmでは550〜950cm^<-1>と150〜400cm^<-1>にかけて格子振動による強い吸収バンドがみられる。この各振動数はバルク結晶の報告とよい一致をみた。 (4)t=20nm以下の試料では400cm^<-1>以下の吸収ピーク位置がかなり変化することから,結晶構造の対称性の変化が示唆される。電子線回折によればt=10nm以上ではひずんだReO3構造の単斜晶系をとり,10nm以下では正方晶もしくは立方晶系をとる可能性が高い。 (5)基板温度420℃および440℃で育成したWO2.72試料の赤外吸収スペクトルではWO3と同様に1000cm^<-1>以上と500cm^<-1>周辺の波数領域に吸収がないことから結晶構造は基本的には似ているが,個々の振動数が異なることから対称性は全く異なるものと考えられる。 (7)膜厚を薄くしていっても吸収強度が減少するのみで振動数の変化はみられないことから,WO2.72では膜厚10nm以上では対称性の変化は起こらないと推測される。
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