研究概要 |
本研究は遍歴電子による磁気モーメントが磁場によって伸縮可能であることを考え,特殊な磁気構造のもとで,強磁場によって磁気モーメントを消失させる可能性を検討するものである.外部磁場によるモーメントの消失の可能性としてEr_<1-x>Lu_xCo_2を取り上げた.またフラストレーションによって磁気モーメントを消失させるケースとしてはFeのラーベス相化合物を対象とした.以下にそれぞれの結果を記す. 1)外部磁場によって磁気モーメントが消失するには遍歴電子磁気モーメントがもともと分子場によって誘起されていること,かつフェリ磁性的な構造で外部磁場が分子場と反平行であることが重要である.その場合,外部磁場は遍歴電子磁気モーメントに作用する有効磁場を減少させることになるので磁気モーメントに消失が強磁場下で実現する.我々はEr_<1-x>Lu_xCo_2においてx=0.3付近の磁化曲線にブロードなメタ磁性転移を観測した.さらに体積磁歪やNMRの測定結果から,この現象がCoの磁気モーメントの消失によるものであることを明らかにした.このような外部磁場のもとで磁気モーメントが消失するという振舞は今までは全く報告されていない新しい現象である. 2)磁場によって磁気的なフラストレーションが解除される場合,モーメントを消失するほうがエネルギー的に得になる場合がある.このことが零磁場下で組成によって起こるものとしてFeのラーベス相化合物がある.その例としてHf_<1-x>Ta_xFe_2とSc_<1-x>Ti_xFe_2を取り上げ,その熱的,電気的な性質を調べた.その結果,これらの化合物では2aサイトのFeの磁気モーメントが消失する組成付近で電子比熱係数(γ)や電気抵抗のT^2の係数(A)が極めて大きくなることを見いだした.その原因として磁気モーメントの消失によって発生するスピンの揺らぎが考えられる.実験的に見いだされたAとγの関係はスピンの揺らぎの理論で説明されることも明らかにした.
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