研究概要 |
インバー合金やステンレス合金などのFeを中心とした遷移金属合金の物理的性質や磁気的性質については,Fe原子そのものの磁気体積効果が重要な役割を果していることが指摘されている.さらにこれらの合金は各種の実用合金,特に原子炉や核融合炉に使用される合金材料の基礎となっている.本研究ではまずFe‐Niインバー合金について磁気体積効果による格子間原子のまわりの微小な格子のひずみを,X‐線散漫散乱により検出することを試みた.4軸型X線自動回折装置とクローズドループ型低温クライオスタットを用いて,Fe‐35.4at%Ni合金単結晶板状試料について,温度が15Kの低温から300Kまでの範囲の各温度でX線散漫散乱の測定を行った. 温度が300Kの室温では200‐ブラッグピークのまわりの散漫散乱は、試料の各部分で位置によらず逆格子空間で球形であった.これは熱散漫散乱であり,この温度ではなんら異常はみられなかった.試料の中心部にX線ビームを固定し温度を下げて行くと,15Kの低温までX線散漫散乱は球形のままであった.しかし,試料の端の一部にX線ビームを固定して温度を低温に下げて行くと,しだいにストリーク状の異常な散漫散乱が[011]方向に伸びてくることを発見した.このストリークは温度変化に対し可逆的であり,15Kから温度を上昇させて行くと40Kまでは大きさがあまり変わらないが,100Kになるとかなり小さくなり,200Kでは非常に小さく,300Kで完全に消失した.この一部の異常なストリークの原因として,局所的な組成のゆらぎが考えられる.局所的な組成のゆらぎが存在すれば,Niの濃度が低い部分で低温でマルテンサイト変態の前駆現象が現れると考えられる.このような部分ではFe原子特有の正の磁気体積効果により,微小なFe原子のずれに対し磁気モーメントの増加と原子体積の膨張がおこると考えられる.さらにFe‐Pdインバー合金についても低温で散漫散乱の円盤状の異常を発見した.これらの結果により,これまでに原因がはっきりわかっていなかったインバー合金の種々の異常な性質を,はじめて格子の微小なひずみと対応させることができる.
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