この研究の目的は、Uを含むアクチナイド化合物が示す近藤効果、重い電子状態をミクロな立場から調べるため、磁気的相互作用の小さいU化合物を探索するとともに、NMRの手段を用いて研究することである。 研究分担者である高畠はウラン化合物のうちでU-T-X(T=遷移金属、X=メタロイド)系ではsp-f、d-fの混成の程度に応じて多彩な基底状態が出現することに注目し、UT_2X(T=Ni、Pd、Cu、Pt、AuおよびX=Al、Ga、In、Sn)およびU-T-Ga(T=Ni、Cu、Pt)の探索を行った。前者では電子比熱係数γの値が100mJ/K^2mol以下のものしか得られなかった。後者では、今回の探索の結果、新たに Upd_2Ga、UNi_2Ga、UNiGa_3、UNiGa_4、UCu_<3+x>Ga_<2-x>を見いだし、帯磁率、電気抵抗および比熱の測定を行った。これらの物質のうちでγの値が200mJ/K^2mol以上の重い電子状態はUCu_<3+x>Ga_<2-x>(x=0.1、0.3、0.8)で実現していた。特にx=0.8では1.3Kまで磁気的秩序が現れていないので、今後NMRの測定を行う予定である。 研究代表者の小島は、UPt_2Sn、U_3Pt_3Sn_4のNMR測定を行った。UPt_2Snでは帯磁率や比熱の温度変化に明瞭な磁気転移が現れなかったが、^<195>PtのNMR信号が60Kで消失し、この温度がネール点であることを確認できた。また^<119>Snの信号は4.2Kでも観測され、この物質の磁気構造は、Snの位置で内部磁場を打ち消すような構造であることが示唆された。U_3Pt_3Sn_4について^<195>Pt、^<119>Snのナイトシフトの測定を4.2Kから室温まで行い、温度の低下とともに増加するナイトシフトの値がHe温度付近では飽和することを見いだした。これは、値が飽和する温度領域で5f電子が遍歴的になっていることを示唆している。当初予定していた緩和時間の測定はナイトシフトの測定に手間取り開始が遅れたが、本年8月にアムステルダムで開催される強相関電子系の国際会議でナイトシフトの結果とともに公表する予定である。
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