研究概要 |
タンパク質結晶の成長機構を解明し,結晶の完全性を評価するために,レーザー光散乱トモグラフ法によって,卵白リゾチーム結晶の内部に存在する各種の欠陥の観察を行った。この結果を,表面マイクロトモグラフ法によって得られた卵白リゾチーム斜方晶単結晶の表面融解により生ずるエッチビット像と比較し,対応関係を確認した。とくに包有物とそこからの線状欠陥の発生および点欠陥分布について,両者の観察結果に良い一致をみた。また,上記観察を,成長のその場観察として行うために成長セル内に結晶を固定し,90度散乱角方向におけるトモグラフ像がえられるための装置を作成した。また,その場観察を行いやすくするために,大きな卵白リゾチーム単結晶を育成する条件と方法を探索した。その結果,結晶成長させるタンパク質溶液の対流を抑制する工夫,たとえば不均一核形成用のガラス板の挿入などが極めて有効であることが判明した。 卵白リゾチームの他に,植物由来のレクチンである,コンカナバリンAの結晶育成を行い,光散乱トモグラフ法とエッチング法の観察を試みた。しかしながら,コンカナバリンAはアモリファス相を経て結晶化する特性があり,得られた結晶の完全性は低く,粒界などの巨大欠陥を含んでいるために光散乱トモグラフ法の観察には適さないことが判明した。 以上の結果を総括すると, (1)結晶内部には包有物的な格子欠陥が存在する。 (2)点欠陥の密度は成長とともに増加する。 (3)光散乱トモグラフ像の偏光解析より,点欠陥と巨大欠陥を区別できる このことにより,タンパク質の良質な結晶の育成に必要な基礎的条件の確立に本研究が寄与できることを示したといえよう。
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