本年度は、大きく二つのテーマに分けられて計画は進められた。第一は、試料作製であり、これに関しては計画は幾分か遅れている。しかし、試験的試料系であるPd/Co系で1原子層制御に成功し、Co層の1、2原子層の典型的垂直磁化膜を作製した。これらの試料の磁気抵抗の磁場依存性の異方性、およびホール効果の磁場依存性の測定を行った。その結果、磁化で垂直磁化膜に特微的な方形のヒステリシス曲線が、磁気抵抗効果、ホール効果に明白に観測された。磁気抵抗は磁場を垂直に加えた場合に、垂直磁気異方性に対応して、より低磁場で飽和し、特にCo厚0.2nmの試料では、ほぼ全磁場領域にわたって、垂直方位磁気抵抗が、面内磁場磁気抵抗より大きく、消磁状態でも抵抗が大きく異なっている。抵抗の温度依存性は240K近傍に曲がりを示し、キュリー温度の低下を示唆している。また異常ホール効果の符号もCo厚に微妙に依存する。これらの機構の探索を続けている。 第二は、これまで既に注目されている人工格子系での電子輸送効果の測定が、特に巨大磁気抵抗における、伝導電子の散乱機構を探るという観点から、ホール効果と熱伝導度に注目して進められた。Fe/Cr系での異常ホール効果の特異な振る舞いが系統的に調べられ、巨大磁気抵抗効果に関連した伝道電子の磁気的散乱の磁場依存の左右非対称性を、サイドジャンプとスキュー散乱成分に分けることにより、明確に説明することに成功した。また、同様の解析が最大の巨大磁気抵抗が報告されているCo/Cu系でも行われ、我々の解析がより一般的に成り立つことが示された。これまで、熱伝導度の測定が望まれたが、金属人工格子は、より熱伝導の大きい基板上に作られている為、測定が困難であり成功の報告はされていない。今回、非結合系の典型であるCo/Cu/Ni(Fe)/Cu系で、世界で初めて、巨大磁気抵抗に対応した効果を熱伝導度で観測するのに成功した。その結果、10及び80Kでは絶対値を測定し、同時に測定された、電気伝導度との比較により、ヴィーデマン・フランツ則が良く成り立っていること、室温以下で磁場変化部分の割合が電気伝導度と熱伝導度と実験誤差内で一致することから、巨大磁気抵抗効果に起因する電子散乱が、大角散乱と考えてよいことが示された。 希土類を含む人工格子の育成と、物性探索も同時に進行している。
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