本研究では、新しい物性計測手段としてのレーザー励起温度波を利用した動的熱容量の分散測定技術を確立することを第一の目的とし、次にそれを活かして液体・ガラス転移における遅い緩和現象の理解を深めることを第2の目的として行なった。 このために最初に低温度域で動的熱容量の分散が、温度一定の条件下で正確に測れるような測定系を製作した。測定用試料セルは真空槽内において外界からの音響ノイズを遮断できるように工夫し、またセル内のガス置換が可能であるようにし、吸湿性の試料も測れるようにした。また測定温度域をさらに低温までのばすために極低温用コンプレッサーを導入し、その振動や発生音による測定精度低下の原因を調べ、防振処置やセルのシールドの改良などを行ない、高いS/N比を得ることに成功した。 次に上記の動的熱容量の分散測定装置を用いて、フラジル・リキッドの液体、ガラス転移におけるα緩和現象を調べた。この系のガラス転移は最近急速な進展のあった密度ゆらぎモードについてのモード結合理論や、分子動力学による計算機シミュレーションにより計算された緩和関数との比較において、その実験結果は極めて重要である。測定では3価のアルコールであるグリセロール、2価のプロピレングリコール、1価のプロパノールにおいて誘電分散測定と併せて行ない、緩和周波数の温度依存性と緩和時間の分布が、エンタルピー緩和と誘電緩和では明らかに異なることを示すことができた。また、ラマン分光法によりガラスのボソンピークや水酸基の振動モードを調べることにより、これらの緩和の性質がガラス化にともなうクラスター構造の差異と結びついていることを知ることができた。
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