今年度はまず第一に試料であるヘリウム3の固体を生成する耐圧試料セルの設計、製作を行った。このセルはヘリウムに超音波を入射、検出するトランスジューサを設けられるように工夫されている。また、超音波を発生、観測する電気回路系の整備もほぼ完了した。このシステムを用いて、まず液体ヘリウム3中の超音波吸収の観測を行った。液体ヘリウム3を約2mKに冷却し、この温度領域における音波のモードのうち縦波第ゼロ音波の観測を400MHzの高周波において初めて観測することができた。この高周波数における第ゼロ音波の観測はほかに例がない。この観測により液体中の第ゼロ音波はこの周波数においても低周波の実験や理論から予測されるような吸収を生じることが判った。しかし、低温領域においては理論的に予想されてはいたが、従来の実験では見つからなかった機構によると思われる、吸収効果が現れているようであり、これは新しい発見である可能性が高い。 その実験の中で次の2点が今後の研究の遂行に問題点として考えられるようになった。第1点は観測に使用する超音波の周波数が400MHzでは高すぎ、当初計画に挙げていた縦横両モードの超音波の^3He界面伝播を調べるためにはあまり適当でないことが判ったため、超音波の周波数を100MHz程度にまで下げる改良を進めている。もう一点は良質の固体ヘリウムの結晶を安定に育成することにかなりの困難が伴うと考えられる点である。今年度は固体結晶の育成法を確立しつつ、固体中の超音波の伝播信号の観測へと進む。固体結晶の成長を制御することにより界面を制御し、界面における超音波の伝播について実験を進めていく。
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