強誘電性転移(転移点Ta)、超伝導性転移(転移点Tc)等を、固体の相転移として総合的視野でとらえると、種類の違いを越えた共通性がある。特に、高い転移点をもつ物質の共通性をしらべることは、相転移メカニズムを解明する上で重要である。今年度は、高いTaをもつ低次元水素結合系の強誘電性転移を解明した昨年度の成果を論文発表した上で、電子論を、高いTcをもつ超伝導体の理論に発展させるステップを考えた。そして、超伝導性転移と誘電性との接点が見られる物質を2つとりあげ、その機構の解明にとりくんだ。1つは、ハロゲン架橋遷移金属錯体で、水素結合でつながれた一次元電子系の電荷密度波(CDW)転移の問題である。水素結合上のプロトンの運動が、金属鎖上の混合原子価状態を如何に左右するかを理論的にしらべた(学会発表済)が、水素結合で2次元化された電子系の場合は、他の擬一次元電子系よりも、電子間相関を自由に制御できることがわかった。このことをさらに発展させると、電子-プロトンの強相関系ではCDWの変調を受けるだけでなく、電子間クーロン斥力がプロトンの振動によって弱められ、超伝導性の出現(Tc≠0)も可能となることが理論側から示唆される(論文準備中)。2つ目は、アルカリ金属をドープした超伝導性C60固体である。この特性は、サッカーボール構造に特有の分子内振動を媒介とする弱結合理論である程度説明できるが、高いTcを導出するのは無理である。そこで、二重結合C=Cが互いに向き合わないように、C60同士の方向の秩序化を妨げる回転モードを理論化した。このことからTcを高くするのに必要なメカニズムが、昨年度得られたTaを高くするための必要条件と類似性をもつことがわかった(論文準備中)。以上、今年度の成果は、来年度、高い転移点をもつ物質に関して、強誘電性から超伝導性に至る統一理論を手がける上で貴重な礎となった。
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