ランダム行列理論の研究において、次のような成果を得た。 1)ダイソンの円アンサンブルは、複雑なスペクトルの統計的性質を説明するのに用いられ、成功を収めている。一般的な円アンサンブルを考察し、相関関数を計算した。その際には、単位円上の直交多項式を新たに用いた。 2)古典直交多項式に関連した自己双対4元数ランダム行列の相関関数を評価することに成功した。ルジャンドル・アンサンブル、ガウス・アンサンブル、ラゲール・アンサンブルに対して局所相関関数を計算し、アンサンブルには依らないこと、すなわち、ユニバーサリティがあることを示した。 3)ランダム行列アンサンブルの理論においては、アンサンブル平均した量は、アンサンブルのほとんどすべての要素の性質を起述することが仮定されている。この仮定は、ランダム行列アンサンブルのエルゴード性とよばれる。古典直交多項式に関連したランダム行列アンサンブルの準位密度はエルゴード的であることを証明した。 4)準位統計の観点から、1次元離散シュレディンガー方程式を解折した。エネルギー準位と対応する直交多項式の零点は一致する。古典直交多項式に関連した場合の準位密度と準位相関を求めた。準位密度は、ランダム行列アンサンブルから求めたものと同じである。 5)ジャストロウ積の形の変分波動関数に対して、相関関数を計算した。ランダム行列理論における方法を離散系に拡張する。結果は、離散的測度上の直交多項式を用いて表わされる。 以上の結果は新しい成果であり、物性等への応用を準備している。また、ジャストロウ型波動関数をもつ量子可積分系との関係も研究中である。
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