イオン分光法は単色イオンビームを原子、分子に衝突させてエネル損失スペクトルを測定することにより、衝突イオンおよび標的の励起状態を調べる方法である。我々は、これまでにイオンエネルギー数百eVで10meVの高分解能を実現し、種々の非弾性衝突過程、分子の回転励起、振動励起、微細構造間遷移などを観測した。しかしながら、電子状態励起のように広いエネルギー範囲にわたる測定や励起断面積の小さな励起過程ではイオン強度が不足し、分解能を下げて使わなければならない。 現有装置では、イオ源から引き出したイオンビームをエネルギー選別器を通して単色化しているためイオン強度を上げることが困難と考えられる。それ故、高圧ガスをノズルから真空中に噴出させ、断熱膨張領域でイオン化すれば、エネルギーのそろったイオンビームの発生が可能であり、エネルギー選別器が不用になるのではないかと考え本年度初期段階でテストを行った。以前の予備テストでは、ノズル背圧300Torrでイオンビームのエネルギー巾は30meVであった。ノズル背圧を2気圧に上げ、断熱膨張の効果によりエネルギー巾を小さく出来ると期待したが、結果はかえってエネルギー巾が広がってしまった。その原因は、イオンの加速領域で中性ガスビームの濃度が上がり、イオンと中性ガスの衝突による電荷交換反応がおこるためであることが判明した。それ故、現有装置のイオン源およびイオンレンズ系を改良することによってイオン強度を上げることにし、レンズ用シミュレーションコード・SIMIONの導入を進めている。この間、He^+とN_2分子の衝突による分子の振動励起の散乱角依存性を測定した。
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