1950年代から1960年代にかけて、千島から三陸沖にかけてM8クラスの巨大地震が続発した。しかし、1968年M_w8.2の十勝沖地震を最後に、巨大地震は三陸以南には拡大しなかった。それには、次の3つの可能性がある。 (1)三陸以南でそのうち巨大地震が発生する。 (2)三陸以南では巨大地震は発生しない。 (3)三陸以南では大スロー・ア-スクエイクが発生していたが気がつかなかった。 1992年7月18日17時36分(時間はJST)、三陸はるか東方沖、日本海溝近くで、気象庁マグニチュード6.9の地震が発生したこのとき、地震直後から、江刺や宮古(ともに岩手県)観測点の地殻変動記録に、時定数約1日のポストサイスミックな準静的歪ステップが明瞭に見られた。それによると、この地震は、M7.7に対応するモーメントを解放した、時定数が半日から1日の超スロー・ア-スクエイクであることが本研究によって明らかにされた。これは世界でも初めての大スロー・ア-スクエイクの発見であった。 この発見によって、三陸以南のプレート沈み込み様式が、ゆっくりと絶間なく沈み込むクリープ状ではなく、間欠的な非地震性のすべりが卓越する可能性が強まって来た。沈み込み帯のダイナミクス研究の新しい展望が開けて来た。 地震予知の面から言うと、スロー・ア-スクエイクの発生様式は、プレート境界の動的境界条件を左右し、日本列島の「地殻内応力天気図」に大きな影響を与えるので重要である。
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