研究概要 |
グリーンライドのドームグリップ(72°35′N,37°38′W)では、1990年から深層コア掘削が開始され、1992年に氷床底部の3029m深まで到達し、直径10cmの良質なコアが連続採取された。このコアの安定同位体比解析および電気的/化学的解析からは、過去20万年間の年代決定がなされ、地球環境変動の一般的特性や、サンガモン間氷期における著しい環境変動などが明らかにされている。 本研究では、氷の物理的要素の深さ変化を明らかにし、コア試料の力学試験から氷床の流動特性を解明することに重点が置かれた。氷の結晶粒径は、前期完新世でほぼ一定の大きさであったものが、不純物濃度の高いウィスコンシン氷期の氷(1624m以深)では約半分の大きさに減少している。その後、深さが増すにつれて粒径は増加し、氷床底部付近では氷床温度の増加に対応して結晶粒の粗大化がみられる。これらの粒径増加は単調ではなく、過去の大気中のエアロゾル濃度の変化を反映する不純物濃度変動に対応した粒径の振動が重ねあわさっている。 結晶方位分布は、C軸方位が深さとともにコアの鉛直方向に集中する傾向がみられ単極大型が形成されてゆくが、氷床底部付近では逆に分散して多極大型に変化している。この深さでの氷体温度の上昇と粒径増加を考慮すると、高温アニーリング下の結晶成長過程によって氷体組織が変化していると推定される。 コア氷試料の一軸圧縮試験の結果からは、氷体の水平流動が極めて容易であることが示されている。これは、氷結晶の容易滑り面であるC面が水平方向に並んでいることから予想されることであり、シュミット因子を用いて、氷の流動の硬さを定量的に議論することができた。現在ドーム直下ではせん断応力が働いていないためせん断変形は起こっていないが,ドーム位置の変化を議論する場合には重要な知見である。
|