研究概要 |
人工衛星に搭載した海面高度計(アルティメータ)は,海面高度という力学的な物理量を直接測定することができるという点で,海洋物理学にとって画期的なものである。この研究では,海面高度計データを最適内挿法などを用いて処理し,太平洋における,海盆スケールの変動から中規模擾乱に至までの広い波数空間にわたる海面変動の特徴を調べた。本年度には,以下のような成果が得られた。 1.1985年に打ち上げられた人工衛星GEOSATの回帰軌道ミッションの2年間(1986-88年)のデータについて,研究対象海域を北太平洋全域に広げて海面高度の時間変化を解析した。黒潮続流域の海面力学高度[実際の海面の,ジオイド面からのずれ;その傾きから海面での地衡流成分が求まる]の時間変動場が,西向きに移動している明瞭な低気圧性および高気圧性の渦で満ちているのを再確認した。また,衛星による海面水温データを解析し,それらの渦が低温および高温の擾乱に対応することから,傾圧的な性質をもっていることを確かめた。さらに,黒潮続流の南側に存在する黒潮反流の強さが、黒潮続流と連続して変化しており,黒潮続流の季節変動が,亜熱帯循環全体ではなくて,かなり局所的な(1,000〜2,000Km程度の空間規模をもつ)サブ循環の変動を表現しているらしいことを見いだした。 2.1992年に打ち上げられた人工衛星TOPEX/Pseidonの最初の1年間(1992-93年)の海面高度計データを用いて,日本近海での黒潮流路の変動に関する解析を行った。海面高度計データから求めた海面力学高度の時間変化と,海面高度の気候学的な平均値を用いて近似的に求めた海面での地衡流分布の時間変化を,観測船による表面流速データを基にして求めた黒潮流路の位置の時間変化と比較した結果,近似的な地衡流分布が黒潮の変化をかなり正確に捉えていることが分かった。
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