短波海洋レーダによって屋久島南西海域における黒潮フロント付近の表層の流れの南北50km、東西20kmの範囲での分布とその変動を3カ月間の間に連続的に観測するとともに、短波海洋レーダ観測期間中のCTD・船舶搭載式超音波ドップラー流速計(ADCP)観測資料、気象庁海洋観測資料、鹿児島県水産試験場による鹿児島・那覇間を航行するフェリーを利用した表層水温資料および人工衛星NOAA/AVHRRによる海面熱赤外画像資料とを用いて、黒潮フロント付近の流速、水温、塩分の立体分布とその変動の実態を捉え、特に黒潮の前線近傍の渦の役割に注目して、黒潮フロントの維持機構を解明することを目的として、本研究は2ケ年計画で行われた。屋久島南西海域における短波海洋レーダ観測で得られた約5日間の1時間毎の表層流速分布とその変動についての良好な資料を解析した結果、水平収束・発散の分布は潮流によって大きく時間的・空間的に変動すること、黒潮強流帯の北縁に沿って発散域と水平収束域とが交互に水平規模2〜6kmのパッチ状に分布すること、水平収束域での25時間平均水平発散率は-1.5x10^<-4>s^<-1>に達すること、フロントが屋久島南西海域を南下する時にフロント北側では水平発散となること、フロントが屋久島南西海域を北上する時にフロント北側で水平収束率が大きくなること、およびフロント北側では反時計回りの渦が卓越することが確認された。今回の短波海洋レーダ観測によって、沿岸側に卓越する反時計回りの渦が黒潮フロント付近に水平収束域の形成に大きな役割を果たしていることが初めて実測された。また、黒潮フロント付近の鉛直2次元過程あるいは黒潮に隣接する水平渦によって生じる「帯状の水平収束域」によって帯状の黒潮フロントが維持されているという従来の考え方は、本研究によって覆されたと言えよう。
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