アクリル酸メチル(MA)やアクリル酸エチル(EA)を気体試料としてエキシマーレーザ光を照射した結果、重合性化合物を作成することができ、さらに、生成した重合性化合物がセルの形や照射方法に依存して異なった形状を示すことを見い出した。即ち、パイレックスガラス製セルを用いてMAにレーザ光(337nm)を長時間(約14時間)照射したところ大きな一つの塊状の重合性化合物が生成した。この化合物は白色で粒状の小さな塊がさらに一つの大きな塊を形成しており、僅かながら弾力性と粘着性を持っていた。一方、MAを石英の照射窓をもつセルに導入しレーザ光(337nm)を照射したところ、パイレックスセルの場合と異なり石英窓に重合性の薄膜を短時間(30分程度)で形成することができた。これらの結果はエアロゾールが生成したCS_2の場合とも異なり、アクリレートモノマーがフラグメントに分解することなく重合反応が進行していることを示していた。そこで石英窓をもつ照射セルを用いMAを試料として薄膜の生成過程を詳しく検討した。薄膜の収量はMAの試料圧が高い程大きく、照射時間に対してはほぼ比例して増加した。また、MAの試料圧を40Torrとしレーザ出力を変えて(1.5〜3mJ/Pulse)8時間照射したところ薄膜の収量はレーザ光強度の二乗に比例し、薄膜形成には二光子が関与していることを示していた。MAから生成した薄膜は石英窓からはぎ取ることができ、生成物の元素組成や熱分解温度、赤外スペクトルなどの結果は常法で作られたアクリルポリマーの結果と類似していたが、気相反応から作成した重合性化合物はほとんど有機溶媒に不溶であり、THFにほんの一部が溶解した。溶解した成分の分子量は270万であった。以上のように気相からの物質生成過程は励起条件により異なり、また気相中での反応のみならず固相表面での反応とも密接に関連していることが判明した。
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