研究概要 |
本研究の目的は、ヘテロ原子(O、N)を含む芳香族化合物の高い3重項(T_<n〓2>)から1重項(S_<n〓1>)へのT→S逆項間交差(RISC)をポンプ-プローブのレーザー2段励起分光で調べ、高い3重項(T_n)のダイナミックスを明らかにすることであった。従来のRISCの研究の対象は、メソ置換アントラセン類が多かったが、最近、3-ヒドロキシフラボン(3HF)および7-ヒロキシ-1-インダノン(7HIN)の光互変異性体のT^'_2→S^'_1RISCの研究が報告されていた。本研究では、カルボニル化合物である3HFの各種置換体の他芳香環窒素を有するジヒドロキシビピリジンについて、T→S RISCの機構を検討し、下記の成果を得た。 1.3HFの各種置換体の光互変異性体の最低励起3重項(T'_1)励起に基ずくS'_1→S'_0蛍光を検出した。 2.3HFの各種置換体の最低励起3重項(T_1)励起に基ずくS'_1→S'_0蛍光を検出した。これは、励起状態プロトン移動を示す分子のノルマル型3重項励起に因るS'_1生成の最初の報告となる。 3.すなわち、3HFの各種置換体では、ノルマル型とその光互変異性体の最低励起3重項(T_1,T'_1)の何れを励起してもS'_1→S'_0蛍光が誘起される。これらの分離は、3重項増感および3重項消光の手法を用いた2段励起蛍光分光によりなされた。 4.ジヒドロキシビピリジンの励起状態ダブルプロトン移動で生成する互変異性体のT'_1励起S'_1→S'_0蛍光を見いだした。これは、T'_1→S'_0 RISCを示す光互変異性体の第4の例である。その逆項間交差確率は、9,10-ジブロモアントラセンを標準物質とする相対決定法により、0.00063と見積られた。
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