凝縮系では、溶質並びに媒体分子は配向・並進や振動等の分子運動に由来して揺らぎを持っており、その動的な特性が化学反応速度や反応機構に影響を与えている。本研究ではこの分子運動に関する直接的な知見を得ることを目的とし研究を行った。 まず、チタンサファイアレーザー(755nm、半値幅約100フェムト秒)を用いた光学カー効果の測定システムを、新たに購入した光学素子また光電子増倍管による光検出システムを用いて作製した。光学系の最適化条件について検討した結果、フェムト秒領域の光学カー効果の測定に必要な光学素子の条件についての知見を得た。 次に、代表的な液体である二硫化炭素の分極緩和過程を測定した。レーザー光によって誘起される電子分極に基ずくパルス幅程度の応答、それに続くわずかな分子配向に基ずく約70フェムト秒の信号の上昇、三次の屈折率の変化による約170フェムト秒の減衰、そしていわいる分子の配向緩和による1.7ピコ秒の時定数を持つ信号の減衰が得られた。これらの値は、同様の測定によって得られた他の文献値とも一致しており、今回作製した装置が十分な性能を備えている事を示す。 更に、ポリビニルカルバゾールフィルムについても同様の測定を行った。その結果では、電子分極の後、約100〜200フェムト秒以内の時定数の減衰と考えられる時間変化も見られた。これはポリマー中の側鎖(カリバゾール基)の配向による応答と考えられ、この測定法により高分子フィルムのような固相での局所的な媒体の運動に関する知見を得る事ができたと考えられる。 今回得られた結果は時間領域に関する情報であり、ラマン分光等の静的な周波数領域の測定結果との対応を含め、更に詳細な測定法の確立、また他の物質への応用を検討している。
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