近赤外でのアルコールのモル吸光係数は小さく、赤外では困難なニート液体でも近赤外領域では楽に測定でき、さらに光路の長いセルも使用できるので、正確な濃度での測定ができる。また分解能が大きいことから、アルコールの水素結合の研究に関して赤外吸収より、はるかに定量性のある研究が行える。そこで主に近赤外吸収法により、アルコールの会合数および平衡定数に対する分子構造と温度の影響などを調べ、会合アルコールの構造、および水素結合について研究した。 日立自記分光計330にNEC9801コンピューターを連結し、C2〜C8の直鎖アルコールのデカン溶液の近赤外吸収スペクトルを温度を変えて測定し、会合体形成にたいする温度依存性と炭素数依存性を調べた。その際、アルコールの吸収バンド(OHの倍音伸縮振動)には、メチル基とメチレン基のCHの伸縮振動や種々カップリングバンドが重なっているので、これらを差し引く必要があった。そこでアルコールとほぼ同じ炭素数のアルカンの吸収強度をコンピューター処理によりノーマライズ後、差し引いた。しかし、近赤外領域の吸収バンドは複雑で、アルカンですら帰属が未完全であることから、アルカン同族列の吸収スペクトルを測定し、吸収バンドの正確な帰属を行った。C8のオクタノールの会合体形成についてはJ.Chem.Soc.Faraday Trans.の5月号(1993)に掲載予定である。次に、アルキル鎖の吸収バンドの差し引きをより正確に行うために、C8の直鎖アルコールのOH基を重水素化した試料を合成し、これを用いてアルコールのアルキル鎖自身のスペクトルを測定した。しかし、重水素化が不完全だったためか、OH基の吸収バンドがごくわずかではあるが残ってしまい、アルカンを差し引いて得られたスペクトルとOH基重水素化アルコールを差し引いて得られたスペクトルとを比較検討することはできなかった。
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