水素結合についての知見を得るために、アルコールのポリマーの会合数に関して種々方法により数多くの研究がなされてきたが、いまだはっきりとした結論が得られていない。本研究では定量性に優れている近赤外吸収やNMRの緩和時間測定などにより、アルコールのポリマーの会合数および平衡定数の温度依存性、炭化水素鎖長などの分子構造の影響、溶媒の種類の効果などを調べ、アルコールの水素結合について明らかにすることを目的とした。 炭素数4、6、8の直鎖アルコールの純液体、四塩化炭素およびデカン中における会合数は炭化水素鎖長の違いや溶媒の違いのいかんにかかわらず、ほぼ4であることを明らかにした。オクタノールの純液体およびデカン中での会合体形成についてはJ.Chem.Soc.Faraday Trans.に発表した。アルコールの会合数は常に環状の二量体である脂肪酸よりも大きく、これが炭素数の同じ脂肪酸より粘性が大きく、自己拡散係数が小さい理由と考えられた。炭化水素鎖中にシス型の二重結合を持つオレイルアルコールは飽和のアルコールと異なり、会合数は4よりも小さい。これは、シス型の炭化水素鎖の立体障害のため、飽和のアルコールよりも会合しづらいためと考えられる。この結果はJ.Phys.Chem.に投稿予定である。 アルカン同族列の近赤外吸収スペクトルの結果から、従来、メチレン基(CH_2)によると考えられていた1450nmの吸収バンドはメチン基(CH)によることが明らかになり、アルコールのOH基の吸収バンドに重なるアルキル基に吸収バンドを差し引くために、デカンを用いる方法は最適ではないことが明らかになった。そこで、本年度はブタノールについては重水素化ブタノールを、そのほかのアルコールに対してはハロゲン化アルキルを用いて研究を進めた。
|