平成5年度は主として、超音速分子線中に生成するファンデルワールス錯体、H_2O・N_2Oの光分解反応の研究を行った。この錯体は弱いファンデルワールス力でH_2OとN_2Oが結合しているが、193nmのエキシマー・レーザー照射によって分解し、2個のOHラジカルとN_2分子を生成する。これに対応する、セル中での2分子反応:N_2O+hnu→O(^1D)+N_2、O(^1D)+H_2O→2OHにおいては生成する2個のOHの振動、回転エネルギーの分布に大きな差がみられ、このことはO(^1D)がH_2Oと直接に反応して一方のHを引き抜くため、引き抜きで生成するOHとあとに残されたOHが極端に非等価になると解釈される。 錯体起源の反応では、これと全く違って、ふたつのOHはほぼ同一の振動・回転分布を示すことが解った。さらに、OHの内部状態に蓄積される全エネルギーも2分子反応の場合にくらべてはるかに小さいことが解った。この相違を説明するために、錯体起源の反応ではN_2Oから光解離によって生ずるOが^1Dから^3Pに項間交差をおこし、3重項のポテンシャルから比較的長寿命の中間体HOOHを経て反応するという仮説を提出した。
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