溶液中の生体高分子を効率よく配向させることのできる流動配向法と発色団選択性の高い紫外共鳴ラマン分光法を有機的に結合させ、新しい生体高分子構造解析法を開発するために、流動配向・偏光紫外共鳴ラマン分光装置を作製した。フレネルロムによるレーザー偏光面の回転を採用し、また、交互比較測定用コンピュータープログラムを開発することにより、測定結果の信頼性を大幅に高めることができた。この装置を繊維状ウイルスfdの構造解析に適用し、以下の新たな知見が得られた。fdウイルスでは、繊維の芯部に遺伝子である単鎖DNAが線条に延び、その周りを50アミノ酸残基からなるコート蛋白質サブユニット約2700個が取り巻いている。流動配向させたfdウイルスの266nm励起偏光紫外共鳴ラマンスペクトルにおいては、DNAからのラマン散乱強度は、配向(繊維軸)方向に平行、垂直の偏光でほとんど差が無かった。このことから、DNAの塩基平面が繊維軸に対して約54°の配向をしているか、または、全くランダムな配向をしていることが判った。一方、アミド1振動とコートサブユニットあたり1個含まれるトリプトファンの振動は、平行偏光を用いた場合の方が強いラマン散乱を与え、サブユニットのαーヘリックスが繊維軸方向を向き、またトリプトファンのインドール環平面も繊維軸方向に沿った規則的な構造をとっていると結論された。本研究で得られた知見は、他の方法では得ることの出来ないユニークなものであり、流動配向・偏光紫外共鳴ラマン分光法が生体高分子の構造解析に極めて有力であることを示すものである。
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