スピン三重項の炭素クラスターを検出するために、レーザー蒸発法で発生した中性クラスターを、六極磁場中で偏向させる実験を行なった。偏向後のビームを電子衝撃でイオン化して質量分析した場合、4量体、6量体のビーム偏向が観測され、三重項クラスターの存在が明らかになった。一方イオン化の効率としてははるかに高いと思われる。レーザーによる多光子イオン化では、クラスターの偏向は全く観測されなかった。このことは多光子イオン化において光解離が非常に高効率でおこっていることを示唆している。つまり、磁場で偏向できない大きなクラスターからの解離生成物の寄与が大きすぎることが原因と考えられる。この問題を解決するためには、より短波長の光を使い一光子イオン化を行なえばよい。そこで予備実験としてNd:YAGレーザーの9倍波を発生させる実験を行なったところ、一酸化チッ素の一光子イオン化による信号が観測され、真空紫外光の発生が確認された。しかし炭素クラスターの光イオン化のためにはまだ強度が不足しており、今後の改良が必要である。また光イオン化しきい電化分光を行ない、この方法でビーム温度が測定できる程度の分解能が得られた。これと並行して、色素レーザーによる多光子イオン化スペクトル測定システムを立ち上げ、一酸化チッ素の共鳴多光子イオン化スペクトルを測定した。その結果からビーム温度は数十Kと見積られた。さらに炭素クラスターの多光子イオン化スペクトルを測定したが、40nmより長波長側では共鳴による信号は検出されず、この波長領域でも光解離が支配的であることがわかった。
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