アリルトリス(トリメチルシリル)シランはラジカル開始剤を用いベンゼン中四塩化炭素と反応させると4、4、4-トリクロロ-1-ブテンが65%の収率で得られた。このことはケイ素に三つのトリメチルシリル基を付けるとケイ素ー炭素の結合が弱くなるという想定に基ずく。これに対し不飽和結合に四塩化炭素が付加し、その後ケイ素と塩素がβ-脱離し生成物を与えるという説がある。後者の説を排除するため、オレフィンへの四塩化炭素の付加に有効であると言うルテニウム媒触を用いた反応を検討した。アリルトリス(トリメチルシリル)シラン以外のアリルシランは生成物を与えず、後者の機構は排除できた。この反応に有効なハロゲン化物は四塩化炭素、1、1、1-トリクロロエタン、ブロモ酢酸エチル、ブロモアセトニトリル等ハロゲンを引き抜かれ生じるラジカルが求電子的なものに限られる。生成物の収率はアリルトリブチルスズを用いたときと、反応温度を高めに設定しなければならないが、ほぼ同等であった。 アリルスズとの反応で知られているアリルスズ、ハロゲン化合物、求電子的オレフィンの三成分系反応をこのアリルシランを用い試みた。ヨードあるいはブロモシクロヘキサンから生じるシクロヘキシルラジカルはアリルシランには付加しないが、ベンザルマロノニトリルのような求電子的オレフィンには付加する。付加してできるラジカルは求電子的ラジカルであるのでアリルシランに付加し、シリルラジカルを放出する。結果としてベンザルマロノニトリルにシクロヘキシル基とアリル基が付加した生成物が得られる事になる。種々検討した結果、140℃という高温を必要としたが、目的生成物を50%の収率で得ることが出来た。
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