有機遷移金属錯体に導電性などの機能性が発現するメカニズムを明らかにする観点から、複核有機遷移金属錯体内での金属間相互作用に及ぼす種々の因子を、種々の遷移金属メタロセニルアセチリド錯体について検討した。 1.Ru(ll)フェロセニルアセチリド錯体を合成し、その一電子酸化体の単離に成功した。この錯体はX線結晶構造解析によってその構造を確定できた。また、各種スペクトル測定によって、極めて大きな電子の非局在化した系であることが明らかになった。 2.金属交換反応を用いて鉄(ll)フェロセニルアセチリド錯体を合成した。 この一電子酸化体では、酸化サイトはフェロセニル部位に局在化しており、金属間での電子の非局在化は大きくなかった。 3.ビスホスフィン存在下で光照射することによって、ホスフィンを配位した鉄(ll)フェロセニルアセチリド錯体を合成することができた。この錯体の一電子酸化体では、電子が両金属間に大きく非局在化していることが各種スペクトル測定から明らかになった。また、DDQやTCNQとの電荷移動錯体では、電子が分子全体に、受容体の電子受容能に応じて非局在化していることも明らかになった。 4.フェロセニルアセチレンとクロル白金錯体との反応で、白金(ll)フェロセニルアセチリド錯体を合成した。この錯体の一電子酸化体では電子の非局在化はあまり大きくなかった。 5.Ru(ll)ルテノセニルアセチリド錯体を、ルテノセニルアセチレンとクロルルテニウム錯体とから合成した。この錯体の一電子酸化体は不安定で単離できなかったが、二電子酸化体が安定に単離された。この錯体では、両金属上に生じる不対電子がスピンを相殺して安定化していた。ペンタメチルルテノセニルアセチリド錯体も合成しその性質を検討した。
|