本研究は、炭素架橋シクロファンが極めて良く研究されているのに比してその同族体であるにも拘らず殆ど知られていない架橋にケイ素原子を含むシクロファン類の一般的合成法の確立とその構造化学や電気化学的挙動およびそれらを前駆体とする導電性物質の創製の可否について検討することを目的とした。 [2. 2]メタシクロファンの同族体としては架橋にケイ素原子を2〜4個含むシクロファン6種類の合成経路を確立した(収率、9〜38%)。また、これらの化合物について主に核磁気共鳴スペクトルを用いて構造化学を詳細に検討した。主な結果の一例として、ケイ素原子の導入数や導入位置により環反転エネルギーに大きな違いがあることを見い出した。即ち、架橋のケイ素数3や4個では室温でも環反転しているのに対してケイ素2個では導入位置によりスペクトルの融合温度に違いはあるが、環は固定されていると考えられる結果が得られた。また、電気化学的酸化反応をサイクリックボルタンメトリー法により調べた結果、これら化合物においては炭素系でのメタシクロファンに特異的に見られた渡環反応が起こっていると想定する根拠は殆ど得られず、むしろケイ素原子によるβ効果が支配的であることを新たに見い出し、提唱した。その他、ケイ素架橋[3.1]、[4.1]、[3.2]、[3.3]メタシクロファンなど6種類を合成した。これらについての構造化学や電気化学的挙動についても詳細を調べた結果、酸化電位はケイ素ーケイ素結合の数や分子の内部歪エネルギーに影響されることが判った。 炭素系で得られた知見、シクロファン→ピレンの反応条件を本研究で合成したケイ素架橋シクロファンに適用して、シラピレン類およびそのポリマー生成を化学的および電気化学的に検討する研究は現在続行中である。
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