有機化学における重要な課題であるカルボアニオンの反応性に関し、次の様な興味ある研究成果を得た。 1.カルボアニオンの反応性が、その金属対カチオンに対する隣接官能基の固定化能力により決定されることを明確にした。β-ヒドロキシスルホキシドより発生させたジアニオンのカルボアニオンにおいて、スルフィニル基がオキシアニオンの金属対カチオンと相互作用するため、カルボアニオンはスルフィニル基と反対方向を向く。したがって、隣接位がフェニルスルフィニル基の場合、カルボアニオンの金属対カチオンはフリーとなり、隣接基に制約されないカルボアニオン系が実現でき、その反応は立体的効果のみに支配された。一方、2-ピリジルスルフィニル基を導入すると、金属対カチオンが2-ピリジル基の制約をうけるため、カルボアニオンの反応は隣接2-ピリジル基の方向に支配された。 2.隣接位の官能基に制約されていないカルボアニオンにおいては、アニオンの立体反転が容易に起こることを見出した。コンホメーションの固定化されているスルホニル基をもつシクロプロピル環上のカルボアニオンは容易に立体反転し、生成物の異性体比は力場計算法による予想比と一致した。 3.立体反転可能なカルボアニオンの分子内アルキル化反応においては、アルキル化試剤側では完全な立体反転が起こることを見出した。この実験事実を用い、パン酵母還元と、立体保持及び反転トシル化反応により、シクロプロパン誘導体の両エナンチオマーを光学純度100%で合成することに成功した。 以上の研究成果に関する論文を現在作成中である。
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