赤〜紫〜青色の花の色素は、そのほとんどがアントシアニンである。アントシアニンは、分子会合することによって、僅か数種類の発色団で多種多様の色調を示し、安定化する。また、金属と錯体を形成して、安定な青色を発現する。これらに対し、自己会合、コピグメント、金属錯体説などで今世紀初頭から説明されてきたが、化学的には充分には証明されていない。 ツユクサの青色花弁色素コンメリニンは、花色発現と安定化の主要機構(自己会合説、コピグメント説、金属錯体説)の全てを内在する超分子金属錯体である。溶かすだけで解離退色するために天然からの単離は極めて困難であった。分子構成成分マロニルアオバニン(M)、フラボコンメリン(F)、マグネシウムから色素を再構築する方法論を開拓し純品を得ることに成功した。円二色性、核磁気共鳴によって構成分子の会合構造を明らかにした。さらに、シンクロトロン放射光を用いたX線結晶解析によって、分子量8500の超分子の精密な高次構造決定に成功した。MMとFFとは、それぞれ面対面で左旋的に自己会合し、コピグメンテーションのMFは、右旋的スタッキングしていた。その全体構造は、環状-MMF FMMF FMMFF-であることがわかった。分子会合は、方向環同士の疎水的相互作用に起因し、青色は、マグネシウムイオンの配位することによってアントシアニジン母核が植物生理的条件下でもケトアンヒドロ塩基アニオンをとって発現することがわかった。 ヤグルマギクの青色花弁色素プロトシアニンでは、再合成実験とESI質量分析によって精密な分子組成をサクシニルシアニン(Sc)、マロニルフラボン(Mf)、鉄イオン、マグネシウムから構成された[Mc_6Mf_6Fe^<3+>Mg^<2+>]であることを明らかにした。 アントシアニンの発色・安定化機構に関する70余年に亘る論争に終止符を打つことができた。本研究の成果は、新しい超分子化学に対し大きなインパクトを与えるものと考える。
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