筆者らが開発した蛋白質の化学合成法であるチオエステル法を、システイン含有蛋白質の合成にも適用できるようにすべく、検討を行った。 昨年開発したシステイン含有部分保護ペプチドチオエステルの調製法をもとに、さらに検討を行った結果、Npys化アミノ酸を用いる固相合成法により、多数のシステイン残基をもつ部分保護ペプチドチオエステルであっても確実に目的物を得ることができることが判明した。すなわち、トリフルオロ酢酸(TFA)処理でペプチドを遊離させることができる樹脂上に、チオエステルを介してペプチドを伸長させる。その際、側鎖にTFAで除去できる保護基をもつNpysアミノ酸誘導体を用いる。システインにおいては、Npys-Cys(Tmb)(Tmb:2、4、6-トリメチルベンジル基)を用いて合成する。保護ペプチド樹脂をTFAで処理し、S-Tmbペプチドチオエステルを手際よく得ることができた。 多数のシステイン残基を分子内に含むヒト免疫不全ウイルス(HIV)の産生する遺伝子活性化蛋白質であるTAT蛋白質を合成対象として取り上げ、これに対応する部分保護ペプチドチオエステルを、Bocアミノ酸あるいはNpysアミノ酸を用いて合成した。調製したセグメントを銀イオン存在下、順次縮合し、TAT蛋白質の全アミノ酸配列に対応する保護蛋白質を得た。全ての保護基を除去した後、高純度のTAT蛋白質を得ることができた。これを用いて亜鉛存在下、非存在下における構造の変化を、CDスペクトルとゲルクロマトグラフィーにより検討したが、現時点では、顕著な構造変化や2量体化などは観測されていない。この点については、今後さらに検討を加えていく予定である。 本研究により、チオエステル法をシステイン含有蛋白質の合成にも適用することができるようになった。
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