γ-ヒドロキシ-β-アミノアルコールは、異細胞の認識や情報の伝達に関与すると言われるスフィンゴシン等の主要官能基として、最近、大きな注目を集めている。これらの分子を効率良く合成するためには、望ましいキラルシントンの開発が重要である。本申請者は、既に、R-(+)-グリシドールを原料としたキラルなシントンとして、光学的に純粋な4-ヒドロキシメチルオキサゾリジノン誘導体の1行程または2行程の合成に成功している。昨年度は、このキラルシントンを原料とし、γ-ヒドロキシ-β-アミノアルコールの一般的合成法の開発をめざした。すなわち、開発したシントンから誘導したエステルのモノアルキル化、つづく立体選択的な還元、水酸基の反転、オキサゾリジノン環の加水分解などによって、トレオニノール、アロトレオニノール、およびフェニルアラニノール、その立体異性体の合成に成功した。原料はS-(-)-体も入手可能であり、また他のアルキル基の導入も可能なため、ここで開発した方法は、γ-ヒドロキシ-β-アミノアルコールの全ての立体異性体の一般的合成法と言える。また、最近、ホスホリパーゼA2(PLA2)の強力な阻害剤として2位にアミド結合をもったリン脂質類縁体が大いに注目されている。本申請者は、新しいPLA2阻害剤の開発をめざして、2位がアミドとなった環状リン脂質類縁体の合成に成功した。すなわち、先にグリシドールより開発したベンゾイルオキシメチルオキサゾリジノンを原料として、この分子の特性である窒素から酸素への転位などの利用、環状リン酸エステル化、コリンの導入などを経て、2位にアミド結合を持ちしかも環状のリン脂質類縁体の両光学活性体の合成を達成した。目下、これら合成品のPLA2阻害活性を検討している。
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