希土類元素パターン及びLa-Ce、Sm-Nd放射壊変系を組み合わせた、希土類元素同位体トレーサーにより、固体地球の初期進化を解明することが本研究の主要な目的である。主な成果は次の通りである。 1.日本で先カンブリア紀の年代を示す唯一の例である、美濃帯の上麻生礫岩の片麻岩礫、花崗岩礫についての同位体地学的研究により、日本列島の基盤岩の化学的進化を理論的に求めた。日本列島の基盤岩は約26億年前にdepleted mantleから分化し、軽希土類元素に濃縮した典型的な大陸地殻であったことを明らかにした。 2.地球初期の始生代の岩石が変成作用を受けずに保存されている数少ない地域である、オーストラリアのピルバラ地域のチャートとコマチアイトについての地球化学的研究を行なった。この地域のチャートの成因には、熱水活動が密接に関与していたことを明らかにし、顕生代の珪質微化石を主体とするチャートとは明瞭に異なることを指摘した。また、チャートとコマチアイトについて、各々の起源物質に関連があることを示した。 3.希土類元素同位体トレーサーの同位体進化を考える際の、基本的データーとなる希土類元素の分配係数を、ザクロ石、単斜輝石、角セン石について、巨晶を用いて求めた。そして、単斜輝石の分配係数のピークの位置は圧力依存性があることを示した。 4.小笠原諸島、ソロモン諸島の島弧火山岩についての、同位体地学的研究により、これら島弧の下のマントルは凹型の希土類元素パターンを示し、大陸地域や大洋地域のマントルとは化学的特徴が異なることを示した。さらに、この化学的特徴の違いは、先カンブリア紀に遡ることを理論的に求めた。
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