光電子をプローブとして用いる分析法は、本質的に表面に対する感度が高く、表面分析法として広く用いられている。本研究で用いた大気下光電子放射分光法(UPYS)は、大気中で試料表面に紫外線を照射し、放出される光電子を同じ大気中で検出するユニークな分析法である。本方法によって得られる情報は、光電子放射閾エネルギーEt、光電子放射収率Y等であるが、本方法を表面分析法として確立するためには、これらの情報と試料表面の電子状態の関係を明らかにする必要がある。本研究によりUPYスペクトルと試料の表面状態の関係について以下のような知見が得られた 不純物濃度および面方位の異なったシリコンウエハーについてUPYスペクトルを測定し、Etを決定した。Etの値及びYは、試料表面での価電子帯のバンドの曲がりを反映しており、UPYSによって試料表面の電子構造に対する有用な情報が得られることがわかった。同様の実験と解析は銅-インジウム-セレン半導体についても行った。また、UPYスペクトルの形状は、試料の面方位によって異なっており、UPY微分スペクトルを比較することにより大気中でシリコン(111)面と(100)面を容易に区別することができることがわかった また、金表面に各種のアルキルチオールを化学修飾し、アルキル基による金表面からの光電子の減衰を精密に測定した。得られた結果を解析したところ、アルキル基中の低速電子の脱出深さは、約11Aであることがわかった。この値は、XPSにおける脱出深さと同等、またはそれ以下であり本方法が表面に対して非常に敏感であることを示している。さらに官能基を持ったチオールを金表面に化学修飾した試料についてもUPYスペクトルを測定した結果、Etの値は表面に修飾した化学種の双極子の大きさとその方向によって決定されることがわかった。
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