研究概要 |
シクロデキストリン(CD)はグルコピラノースを構成単位とする環状のオリゴ糖であり(構成単位6,7,8個のものを、それぞれ、α-,β-,γ-CDと呼ぶ)、水溶液中で種々の溶質をゲストとして空洞内部に取り込み包接体を形成する。一般に、疎水性溶質ほど取り込まれやすいが、ゲスト分子とCD空洞との立体適合性が包接体生成に影響する。CDは、それ自体、比較的に水に溶けやすいが、包接体の水溶解度はゲスト分子の疎水性を反映して小さい。疎水性溶質のCDによる濃縮を研究する際、包接体の水溶解度並びに包接体の組成(1分子のCDに対する取り込まれたゲスト分子の比)を明らかにするのは重要である。 そこで、疎水性溶質として、pentane,hexane,heptane,octane,nonane,decane,cyclohexane,benzene,halobenzene(F-,Cl-,Br-,I-benzene),p-difluorobenzene,benzene,biphenyl,naphthalene,diphenylmethaneの17種類を用い、それらのα-,β-,γ-CDとの包接体の水溶解度を測定し、さらに、包接体の組成を決定した。包接体の組成決定に関しては、従来から、いくつかの研究例が報告されているが、本研究で得られた値は、これらの文献値と大きく異なるものであった。従来の方法では、過剰量のゲスト相(液体あるいは固体として存在する)を直接、CD水溶液に加え、生成する包接体を沈殿として母液から分離する必要があった。この方法では、包接体の沈殿とゲスト相とを完全に分離するのが難しく、包接体の組成は共存するホスト相の影響を強く受ける。これに対して、本研究で開発した方法は、ホスト相そのものを用いず、それと平衡状態にあるホスト蒸気を利用するため、包接体を純粋に単離することができるという利点がある。この方法によれば、2種類のホスト共存下で包接体を生成させることができるので、疎水性溶質のCDによる包接・濃縮機構の解明が可能であることが判明した。
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