フタロシアニン錯体は古くから使われているきわめて安定な構造を持つ色素分子であり、近年になってますます光機能材料としての応用が盛んになってきている。またこの化合物はシリコン錯体の形で高分子化することができるため、高分子鎖上で連結しているフタロシアニン分子同士の相互作用が、単分子におけるのとは異なった性質をもたらすという可能性があり、特に植物の光合成系におけるクロロフィル分子の集合体の機能との関連で注目されている。 本研究では重合度の異なるシリコンフタロシアニン錯体を合成するとともに、その分光学的性質すなわち電子スペクトルおよび時間分解EPRスペクトルに重合度のちがいがどのように反映するかを調べた。液体ヘリウム温度における電子スペクトルにおいてはモノマーで見られた著しいホールバーニングが二重体化によって消失することを見出した。このことは極低温下でも隣接する環同士が相互に回転していることを示唆しており、興味ぶかい。また時間分解EPRスペクトルの結果によると、三重項を形成する平行スピンの対が分子鎖に添って非局在化し、その程度が分子量に依存することが見出された。
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