研究概要 |
本研究では、近年、生体必須微量金属として注目されているバナジウムの化学の中で、特に3価バナジウムのオキソ架橋二核錯体に焦点を絞って研究を進めてきた。まず最初に、種々のアミノ酸やアミノポリカルボン酸を配位子とする3価バナジウム錯体を合成・単離し、X線結晶構造解析等により、錯体の構造決定を行った。その結果、ntaを配位子とする錯体は、めづらしい面冠8面体構造を取っていることがわかった。また、2分子のシステインまたはペニシラミンを配位した錯体は、トランス(S)6配位8面体構造をとることがわかった。これら両者の錯体の溶液内挙動を、可視紫外吸収スペクトルおよびラマンスペクトルを用いて調べた結果、これらの錯体は、水溶液中で不安定であり、容易にV-S結合が、開裂することがわかった。一方、edda、1,3-pdda、1,3-pdta、eddda、eddsを配位子とする錯体では、それぞれ特定のpH領域で、オキソ架橋二核錯体を形成し、特徴的な可視吸収スペクトルとラマンスペクトルを与えることがわかった。これらの錯体について、吸光光度滴定あるいはpH滴定より、酸解離定数および二核錯体生成定数を求め、類似の鉄錯体のものと比較した。その結果、オキソ架橋二核錯体形成能は、鉄(3)錯体と比べて、バナジウム(3)錯体では、いくぶん小さいことがわかった。一方、edtaやcydtaのバナジウム(3)錯体は、塩基性領域においても二核錯体を形成しない。これらの錯体は、共に7配位構造をとっている。このように、配位子の種類による二核錯体形成の有無を、単核錯体の配位立体構造と関連づけることができた。
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