研究概要 |
シクロペンタジエニル-金属(Cp-M)錯体は、古くから合成、研究が行われ、有機合成や触媒反応に利用されている。その中で、近年面不斉を有する錯体が、立体選択的反応の触媒等となることから注目され始めた。しかし、この面不斉Cp-M錯体は、合成、光学分割が、一部の金属を除いて、困難なものとされてきた。我々はこの問題点に注目し、先頃報告された多置換シクロペンタジエン類の合成法をもとに、予めシクロペンタジエンに光学活性基を導入した後、錯体を合成する経路を考え、既にフェロセン、Cp'Rh(cod)錯体を合成、分割できることを明かにした。本年は、これまでの結果を基に、金属としてニッケル、コバルトを選び、合成、光学分割についての検討を行った。 NiCl_2(PPh_3)_2と、光学活性基を持つシクロペンタジエン(Cp'H)から誘導されたCp'Tlとを反応させたところ、Cp'NiCl(PPh_3)とPPh_3の混合物を得た。続いてこの混合物をフェニルアセチレンと銅塩触媒存在化に反応させて、Niアセチリド誘導体へと導き、ジアステレオマー混合物として単離、精製を行った。このようにして得られたジアステレオマー混合物は、HPLC(silica gel)によってそれぞれのジアステレオマーに分割し、種々のスペクトルによりその構造を確認した。しかし、これらジアステレオマーの対掌体への誘導は、種々検討を加えたが、未だ成功していない。 また、ロジウム錯体の結果を踏まえ、新規触媒反応の開発を目指し、同じ構造を持つコバルト錯体について合成を検討した。1,5-シクロオクタジエン存在下、CoCl(PPh_3)_3とCp'Naを反応させたところ、Cp'Co(cod)をジアステレオマー混合物として得ることができた。しかし、Rh錯体とは異なり、HPLC(silica gel)では分割するには至らなかった。そこで、得られた錯体をジフェニルアセチレンと反応させ、cod配位子をシクロブタジエン(C_4Ph_4)配位子に変換した。その結果、これら2種類のジアステレオマーを、カラムクロマトグラフィーにより容易に分割することに成功した。更に、錯体のX線結晶構造解析を行ったところ、面不斉(Cp-M)と中心不斉[(-)-menthyl]のみならず、軸不斉(C_4Ph_4)も存在することが明かとなった。この錯体は、光学分割された面不斉コバルト錯体の初めての例のみならず、1分子内に異なる3種類のキラリティーが存在する初めての化合物であり、構造並びに立体化学的に非常に興味が持たれるものである。
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