研究概要 |
パンコムギのBゲノム提供親と考えられているエギロプス属シトプシス節に属する2倍性野生種,Ae.speltoides,Ae.bicornis,Ae.sharonensis,Ae.longissima及び、Ae.searsiiを材料として、パンコムギの核ランダム・クローンを用いたRFLP解析を行ない、それらの種の種内変異と系統関係を調べると共に、パンコムギへの類縁度の推定を行なった。Ae.speltoidesの種内変異量のレベルは、他の4種の種間の違いに相当する程の極めて高いものであるが、他の4種においては種内変異はほとんど存在しないことが明らかになった。このような種内変異量の違いは、Ae.speltoidesは、他殖性であり、他の4種が自殖性であるという繁殖様式の差によるものであると思われる。しかし、種間の分化の程度は、シトプシス属のいずれの種の間についてもほぼ同じ程度であった。シトプシス節に属する5種のRFLPによる系統関係は、形態に基づいた分類と完全に同一であり、subsection Trancata(Ae.speltoides)とsubsection Emanginata(他の4種)に大きく分けられた。また節内の分化は、核と細胞質の相互作用による形質への効果による分類とも一致する。パンコムギと4倍性種を含めた核・RFLPによる系統関係は、葉緑体を用いて得られたものと類似しており、核ゲノムと細胞質オルガネラゲノムの系統進化が協調していることを示唆している。今後、プローブの数を増やすことで、ゲノム全体の変異を考慮し、より精密な解析を行なうことを計画している。また、パンコムギのA及びDゲノムの提供祖先種である一粒系コムギやタルホコムギを材料としたRFLP解析も進行中である。
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