高等生物のゲノム中にはSINEあるいはLINEと呼ばれる高度に反復した配列が多く見られる。これらの反復配列がどのような進化をしているか、また生物学的にどのような役割を担っているかを調べることは、生物学的に非常に興味深い問題である。本研究では、散在反復配列の集団遺伝学的モデルをたてて理論的に解析し、またデータの解析によるモデルの検証を行うことによってこれらの問題を追及した。理論的解析としては、まず淘汰に関する中立性を仮定し、コピーの有無に関する種内あるいは種間の変異がどうなるかを理論的に解析した。集団から複数のサンプルを取ったとき同じ場所に反復配列を持つ確率を計算し、反復配例の増幅時期や種の系統関係を推定する方法を検討した。この結果に基づいて、Aluの最も新しいファミリーのデータを解析した。この解析から同じファミリー内でのエレメント同志の塩基配列変異量を使って、過去の歴史についての推定や増幅様式についての情報を得ることの重要性が認識された。そこでデータベースより得た2000個以上のAlu配列データを使って、配列解析を行った。統計的道具立てやプログラムの開発に予定以上に手間取り、必ずしも全ての必要な解析を終えることは出来なかったが、Alu配列の増幅が非常に少ないマスターコピーによるものではないであろうという結論が得られた。またこれらの解析法を使って、増幅期間やその増幅率に関する推測を行った。今後更に解析を進めることによって、マスターコピー数に関する結論の妥当性を検証するとともに、この研究で開発された手法を使って、他のファミリーやLINE配列の解析も行っていく必要がある。また本研究では出来なかった簡単な自然淘汰を含めたレトロポゾン増幅モデルの解析も、散在反復配列の生物学的意義を知る上で重要な問題であり、今後の課題である。
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