研究概要 |
温血脊椎動物染色体を種々の分染色法で染色することで,少なくとも4種類(R,G/Q,T,Cバンド)のバンド構造が光学顕微鏡で観察される.これらと染色体DNAの塩基組成のモザイク的分布との関係を解明することを試みた.本年度は最近注目されているTバンドを中心に研究を行った.TバンドはRバンドのサブタイプで,熱変性に対して顕著に安定な部位として知られており,GC塩基に富むMbレベルでの巨大構造と考えられている.染色体バンド構造の機能上の意味ならびにそれが出来上がってきた進化機構を考える場合,バンドの境界の構造を知ることが重要となる.従来から研究によりGC含量が大きく変化する部位がヒト主要組織適合性抗原遺伝子(MHC)領域のクラスIIとクラスIIIの境界領域に存在することを推定していた.境界部位の構造的特徴を調べる目的で,クラスIII遺伝子群(高いGC含量でTバンドに対応)からクラスII(低いGC含量)にかけての約400kbの領域に着目して遺伝子歩行を続け,GC含量と塩基配列の解析を行った.約350kbのコスミド遺伝子歩行を完了しており,それと並行してGC含量モザイク境界をカバーするYACクローンをも得た.両種のクローン化DNAの解析により,コスミド歩行についてもモザイク境界そのもの,ないしはその近傍にまで達していることが示された.クラスIII側(GCに富む)より歩行の最も進んだ領域の塩基配列決定を行ったところ,数十kbの多数のAlu反復配列よりなる特徴的な構造を持つことが示された.クラスII側(ATに富む)についても,Aluとは異なる反復配列の集中する傾向を見い出している.染色体バンドの境界と想定される巨大GC含量モザイク境界が「反復配列が大規模に集中する部位」と云う明瞭な特徴を持つ可能性が出てきた.
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