研究概要 |
ヒトを含む高等脊椎動物のゲノムは数百kbpから数MbpレベルでのGC含量のモザイク構造よりなることが知られ、このGC含量モザイク構造が染色体バンド構造と関係して機能上のドメインを構成すると想定されている。モザイク構造の機能的意味や出来上がってきた分子進化機構を知るためには、モザイク境界の構造上の実体を解明することが重要になる。我々はヒトMHC領域(HLA)がMbpレベルでのGC含量モザイク構造よりなり、モザイク境界部位がクラスIIとIIIの境界ないしはその近傍にあることを報告してきた。モザイク境界を含む約400kbの遺伝子歩行を続け、全域を覆うコスミドとラムダファージならびにYACの連続クローンを得た。GC含量分布の詳細な解析を行なったところ、Mbpレベルでの巨大GC含量モザイクの境界がkbレベルで正確に同定できた。この領域の塩基配列を決定したところ、興味深いこととして、その境界近傍に、XY性染色体短腕の末端付近を占めるpsedoautosomal regionとXY特異配列の境界部位の配列(約500bpのpseudoautosomal boundaryと呼ばれる)と高い相同性を持つ塩基配列が存在していた。psedoautosomal regionはXY両染色体でほぼ同一の配列を持ち、減数分裂でのキアズマ形成に重要な働きをする。XY性染色体においてpseudoautosomal boundaryの配列はDNA複製タイミングあるいはX染色体不活性化のスイッチ点である可能性が示唆され、生物学的に重要と考えられている。この配列ときわめて相同性の高い配列がMHC領域のGC含量モザイク境界部位に見い出されたことは意義深い。またこの領域周辺にNotch3,PBX2mhc,RAGE,TN-X(テネイシン-X)の4つの新遺伝子を見いだし、またマウスゲノム上でもTN-X遺伝子が同定でき、その遺伝子発現様式も明らかにした。
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