カドフシアリ、クロヤマアリ、エゾアカヤマアリ、シワクシケアリ、エントツハリアリの個体間行動を観察し、次のような結果を得た。1)いずれの種においても、コロニーの異なる個体間には敵対行動が見られるが、幼虫や蛹は受け入れられることも多く、この傾向は、特にクロヤマアリとエゾアカヤマアリで強い。2)クロヤマアリ、エゾアカヤマアリ、シワクシケアリでは、内役ワーカーよりも外役ワーカーにおいて血縁認識能力が顕著に発達しており、異なるコロニーからの若い侵入者は、外役ワーカーには必ず攻撃されるが、内役ワーカーには受け入れられることもある。3)ただし、いずれの種においても、異なるコロニー間の認識能力しか認められず、同一コロニー内におけるフルシブ認識能力の存在を示す証拠はまだ得られていない。4)カドフシアリには、ワーカーと女王の中間的な形態を示す中間カーストが存在し、女王と同じ程度の産卵能力を有している。ただし、両者は排他的であり、受精して産卵可能な中間カーストと女王が同一コロニー内に共存することはほとんどない。尚、これについては国際社会性昆虫学会誌に論文を投稿し、受理された。5)エントツハリアリの平均コロニーサイズは約9個体と極めて小さく、且つ形態的に分化した女王が存在しない。代わりに、ワーカーのうち1個体が受精し、実際に産卵している。そこで、個体マーク法により個体関係を詳しく観察したところ、ワーカー間に順位制が認められ、最上位個体のみが受精し産卵できること、また、この順位制が主に齢に基づき、若い個体ほど上位を占めやすいことが判明した。尚、これについてはイギリス王立動物行動学会誌に論文を投稿し、受理された。
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