北日本と北アメリカのオシダ属20種についての葉形計測と葉のタンパク質の分析を行った。また北海道のオシダ属の分布精査を継続した。 総タンパク質の相対頻度と葉形アロメトリーとの対応は明確ではなくむしろ同所性の雑種形成する種群でのタンパク質相対頻度の相似性が確認できた。すなわち葉形レベルと細胞タンパク質レベルでの異質性が示唆された。形態分化と遺伝子交流の速度(分化)は一定ではなく、生物レベル各々でのホモロジーの再検討が待たれる。 シダ植物の空間分布について地域から地球レベルでのスケーリング解析を試みた。範囲を変えた同数分割と同一範囲での異数分割のふたつについて検討した。それぞれに固有の軌跡が描かれ個体・個体群・種における広がりの特性が、異なる空間サイズ・異なる環境要因と複合的に関っていることが示唆される。異なる生物レベル(ミクロからマクロ)の時間・空間での配置についてひき続く精査が待たれる。たとえばクローン繁殖するオクヤマシダなどでは、数10m方形区では頻度が高く、数百メール方形区では低下し、数10キロメールではふたたび頻度が高まるなどの軌跡が期待される。また周極分布するナヨシダなどでは、北半球レベルでは頻度が高いが、北海道レベルではまれにしかない分布様式もみられる。こうした軌跡は個体・個体群・種レベルを通じた固有な軌跡を示すこととなる。地史レベルから現在の気候要因さらには微環境での定着へと、マクロからミクロの分布様式が異なる要因から導かれることが示唆される。
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