異なる水深から採取された紅藻について、紫外線が光合成におよぼす影響を調ベた。また、沿岸域での光環境に合わせて測定した。PAR(光合成有効波長域)や紫外線を含む太陽からの直射光に対して、浅所(0-5m)から採取された紅藻についてはほとんど影響は見られず、浅所産紅藻は明るい光環境に適応しており、紫外線に対する適応性を持っていた。これに対し、深所(水深25-30m)から採集された紅藻は、30分間の直射日光に対して、著しい光合成の低下が見られた。紫外線は、海面上で太陽放射の1-4%を占めるにすぎないが、深所産紅藻に対してはその阻害作用はかなり大きく表われる。水中の光環境を波長別に測定した結果、紫外線は5-10mの水深まで、深所産紅藻の光合成に阻害を及ぼすほどの量が透過していることが確かめられた。したがって、深所産紅藻はこのような浅所では生育できない。 紫外線に対する防御機能の一つとして、海藻類に特異的に含まれる紫外線吸収物質に注目し、さまざまな水深から採取された紅藻について、本物質の量を測定した。その結果、浅所、特に潮間帯に生育している海藻には多量の紫外線吸収物質が含まれており、水深0-5mに生育する海藻にも相当量の本物質が含まれていた。これに対し、水深25-30mに生育する深所産紅藻では、ごく少量もしくは全く含まれておらず、浅所産、深所産紅藻で著しい違いが見られた。 本研究では以下のことを明らかにすることができた。水中の光環境の詳しい測定から、これまで考えられていた以上に、紫外線は水中に透過する。紫外線は藻類の垂直分布を決定する最も重要な要因の一つであり、特に深所産海藻に対しては著しい阻害作用を示す。藻類の紫外線に対する防御機能の一つとして、紫外線吸収物質は重要な役割を果たしている。
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