本研究の目的は「自然集団において、イヌヤマハッカ2変種の花の形態に対する自然選択の強さと方向性について結実率における適応度を測定して評価する」ということである。4年度においては、花筒長の詳細な変異、送粉昆虫(マルハナバチ)の訪花習性、植物2変種の結実については、ほぼ明かにすることが出来た。しかし酵素多型を用いた遺伝的変異についてはほとんど調査ができなかった。 長野県中部から新潟県にかけてカメバヒキオコシからタイリンヤマハッカへの花筒長連続的変異の実態について明かにすることができた。また長野県北部の両変種をつなぐ花筒長変異が見られる集団のうち3集団を選び、訪花昆虫の観察、結実率の調査をおこなった。その結果植物の花筒長の送粉昆虫の口吻長との間に予測どおり高い相関が見られた。そして訪花頻度に2つのピークが存在しそれぞれ異なったマルハナバチが主に訪花していた。つまり花筒長8mmあたりを境に短い花筒長(カメバヒキオコシ)では短い口吻長のマルハナバチ(ミヤママルハナバイ)が、また長い花筒長(タイリンヤマハッカ)には長い口吻長のマルハナバチ(トラマルハナバチ)がそれぞれ対応していることがわかった。また訪花頻度に相関して結実率も高くなる傾向を示した。花筒長8mm前後の集団では上記2種のマルハナバチが訪花するが頻度の割に結実率は低い傾向を示した。しかしこれらの傾向はそれほどはっきり断定できるものではなかった。4年度は日照時間が平年に比べて少なく、観察できた時間が少なかっただけでなく、このような気象条件が訪花昆虫の訪花頻度に影響を与えていると思われる。5年度においての補充、及び年変動の評価などの必要なところである。そのため選択圧の方向、強さについては5年度の調査結果から総合的な考察を行ないたい。
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