筆者らは1990年より、滋賀県において地球温暖化ガスメタンの地表面レベルでの収支について調査を行っている。その結果、県内のさまざまな土地利用形態のうち、森林では林床の土壌によって大気中のメタンが吸収されていることが明らかになった。大気中のメタン濃度が年々上昇している中で、森林土壌による大気中メタンの吸収は注目すべき現象である。そこで、ひきつづき滋賀県内の森林において、より精細な調査を行い、土壌によるメタン吸収の正確な定量と、その機構の解明を目指した。 自然林(照葉樹林)、落葉広葉樹二次林(コナラ林)、マツ林、ヒノキ植林地の4種の森林それぞれに1ヶ所ずつ調査地を設け、毎月1回1年間継続して林床土壌でのメタンフラックスの測定をチャンバー法によって行った。メタン吸収速度は自然林で0.08〜0.13mgCH_4/m^2/hrと最も大きく、マツ林、ヒノキ植林地ではそれぞれ0.01〜0.04mgCH_4/m^2/hr、0.04〜0.07mgCH_4/m^2/hrであった。落葉広葉樹二次林では、冬の積雪時にはメタン吸収速度は0.01mgCH_4/m^2/hrであったが、それ以外の時期では0.06〜0.1mgCH_4/m^2/hrであった。各森林の土壌については、pHや酸化還元電位などにはほとんど差が見られなかったが、孔隙率には自然林が他の3つの森林に比べて高い傾向が見られた。土壌の孔隙率は大気の土壌中への拡散を左右する因子であり、森林ごとでのメタン吸収速度のちがいは、ひとつにはこのことが原因となっているものと考えられる。一方、どの森林においても、メタン吸収速度は夏の終わりごろから秋にかけて高くなる傾向が見られた。これは、森林土壌によるメタンの吸収は単純に温度に依存したものではなく、もっと生物学的な要素が関係しているということを示しており、今後この方面についてさらに詳しい研究が求められる。
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