生育段階構造と密度依存性を表現できるモデルを用いて、植物の生活史の進化および動態に関する研究が行われた。主なテーマは、(1)上記モデルにおける突然変異種の侵入可能条件の解析、(2)上記モデルを用いた個体群動態の解析手法の開発、(3)繁殖回数の進化、(4)種子繁殖・栄養繁殖への最適分配戦略、である。(1)の成果については、初年度にMathematical Biosciences誌に、また次年度に数理解析研講究録に発表された。(2)に関しては、温帯林の毎木調査のデータを利用して、密度依存性を表現できるモデルを用いた個体群動態の解析の手法を開発した。その成果は現在Journal of Ecologyに投稿されている。次に、(1)の侵入可能条件を用いて、(3)のテーマについて解析を行った。この結果は英文論文としてまとめられ、現在Journal ofTheoretical Biologyに投稿中である。また、(1)の侵入可能条件を用いて、(4)のテーマについても解析が行われた。この結果もまた英文論文としてまとめられ、現在Evolutionに投稿中である。この解析結果を利用して林床植物ヤブレガサの最適分配戦略を求めたところ、栄養繁殖にだけ投資するのが最適であるという結論が得られた。この結果は和文論文にまとめられ(論文題目「推移行列モデルを用いた生活史進化の解析」)、個体群生態学会会報に発表される予定である。また、植物の個体群動態を解析するためによく用いられてきた拡散方程式モデルと今回の解析で用いられている推移行列モデルの間の関係について研究され、その結果がJournal of Mathematical Biologyに発表される予定である。2年間のこれら一連の研究による成果は、発表論文2編、発表予定論文2編、投稿済み論文3編、分担執筆により図書の一部となっている発表論文1編であった。
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