植食性昆虫ヤマトアザミテントウが、パッチ状に点在している食物資源をいかに利用しているかについて、産卵過程に焦点を当てて検討した。 産卵メス成虫の移動の活発さについて調べたところ、産卵期間を通して、明らかな季節変化が見られた。つまり、アザミの株間を移動する頻度は越冬明けの5月上旬から徐々に増加し、6月中旬にピークを迎えるが、その後は急速に低下した。さらに、メス成虫が卵密度の高い株を避けて、卵密度の低い株を選んで卵を産んでいることがわかった。 卵密度の低い株を産卵対象に選ぶという本種の産卵行動について、その適応的意義を検討した。もし、卵密度の低い株に産卵することが、母親の繁殖成功度の増加につながるならば、このような卵の産み方が自然淘汰によって進化したと考えられる。 メス成虫は卵密度の高い株を避ける傾向があった。そこで、卵密度の異なる株で育った子供の生涯適応度を比較した。その結果、卵密度の低い株で育った子供の生涯適応度は高かったものの、密度の上昇とともに生涯適応度は急激に低下することが明らかになった。このことから、メス成虫が卵密度の高い株に産卵すると、子供の適応度は明らかに低くなることがわかる。密度依存的な生涯適応度の低下の要因について検討したところ、幼虫期と越冬中の成虫の死亡が重要であることがわかった。幼虫期の死亡要因についてはまだ十分には明らかになっていないが、捕食については空間的な密度依存性が認められなかったため、捕食者よりも植物の質の影響が大きいと推測される。つまり、テントウムシの食害によってアザミの葉に含まれる水分やアミノ酸が低下する傾向があり、このような食物としての質と食害による量の低下が、密度に依存した死亡をもたらすと考えられる。
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