(1)アザミを寄主植物にしているヤマトアザミテントウの繁殖スケジュールの適応的意義をコホートの生涯適応度をもとにして検討した。 生涯適応度は同一個体群であってもコホート間で大きな変異が見られた。また調査地AとFの二つの個体群の間でも違いが見られた。個体群間で見られた違いは、異なる季節変化を示す捕食と食物資源の劣悪化によるものであった。この結果から、調査地Aでは早い時期の繁殖が、調査地Fでは繁殖の長期化が産卵個体にとって適応的であると予測される。両調査地における産卵曲線を比較したところ、この予測に合致していた。さらに、実験室において同一条件のもとで産卵させ、生涯にわたる繁殖パタンを比較したところ、ここでも繁殖期間の長さに有為差があった。この事実は、本種の繁殖パタンが遺伝的に決められている可能性を示唆するものである。 (2)植食性昆虫ヤマトアザミテントウが、パッチ状に点在している食物資源をいかに利用しているかについて、産卵過程に焦点を当てて検討した。 産卵メス成虫の移動の活発さについて調べたところ、産卵期間を通して、明らかな季節変化が見られた。つまり、アザミの株間を移動する頻度は越冬明けの5月上旬から徐々に増加し、6月中旬にピークを迎えるが、その後は急速に低下した。さらに、メス成虫が卵密度の高い株を避けて、卵密度の低い株を選んで卵を産んでいることがわかった。そこで、卵密度の異なる株で育った子供の生涯適応度を比較した。その結果、卵密度の低い株で育った子供の生涯適応度は高かったものの、密度の上昇とともに生涯適応度は急激に低下することが明らかになった。このことから、メス成虫が卵密度の高い株に産卵すると、子供の適応度は明らかに低くなる。密度依存的な生涯適応度の低下の要因について検討したところ、幼虫期と越冬中の成虫の死亡が重要であることがわかった。
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